マイクロSaaSの技術スタックは、1年でこう変わった

株式会社ペンタコン研究所 PentaTrail開発チーム···5分で読める
目次

PentaTrailは、この1年で技術スタックを丸ごと作り替えました。

確固たる計画があったわけではありません。長くやってきたセキュリティの経験を、急速に進むAIの潮流にどう合わせるのか。作っては確かめる進め方で、「これは合わない」と気づくたびに乗り換えてきました。

01 / 1 年で、基盤を 2 度乗り換えた

ノーコードで始めて、コードベースへ移り、開発そのものをAIへ寄せました。乗り換えの理由はどれも同じで、AIを活かせるかどうかでした。

1年の道のりを3つの章に分けた年表の図。2025年4月から7月はMicrosoftのノーコード基盤、2025年7月からSupabaseとVercelの完全コードベース、2026年2月からスキルとメモリを置いたAIネイティブな開発

図1:3 つの章と、その時期

深掘り:1 年前は、コピペで開発していた

いまでは考えられませんが、1年前はWeb版のChatGPTやClaudeにソースコードをコピペし、返ってきた結果をVSCodeに戻してgitで管理していました。指示も結果のとりまとめも人間の手作業です。AIも今ほどの性能ではなく、こちらの意図を十分に汲めないまま思い込んだ仕様で作り込んでいきます。単体ではそれらしく動くのに、既存のものと結合すると噛み合わない。その手戻りを繰り返す日々でした。

02 / 第1章:ノーコードは、人が画面で操作する前提だった

Power Platform、Dataverse、Azureで組んでいました。立ち上がりは速かったものの、使い込むほど、自動化やAIへの肩代わりとは根っこで逆を向いていると分かってきました。

ノーコード基盤で見えた4つの限界の図。人が画面で操作する前提なので自動化と逆を向く、設定管理やバックアップが弱く差分も履歴も戻しもやりにくい、データベースの列名が自動生成でAIから予測できない、認証まわりの連携で枠に収めるほど苦労が増える

図2:使い込んで見えた 4 つの限界

深掘り:致命的だったのは、列名が読めないこと

Dataverseは内部の列名を自動生成します。人が画面で触るぶんには困りませんが、生成AIにコードを書かせようとすると名前が分からず、予測もできません。ここが決定打でした。

Azureも触ってみると、マイクロSaaSには細かすぎました。設定の粒度も運用の前提も、複数人のエンジニアチームで開発・運用することを想定して作られています。良し悪しではなく、想定している規模がそもそも違っていました。

03 / 第2章:AI と相性のよい基盤へ、全面移行した

2025年7月、「Supabase + Vercel」と題した最初のコミットでリポジトリを切り直しました。選んだ理由ははっきりしていて、どれもAIから扱えるかどうかに関わります。

Supabaseを選んだ3つの理由の図。ベースがオープンソースのPostgreSQLで生成AIが知識を豊富に持ちスキーマを完全に握れる、認証の土台が最初から入っている、Next.jsの開発元が出しているVercelと公式にサポートされた形でつながる

図3:選んだ理由は、どれも AI から扱えるかに関わる

深掘り:決済は、奇をてらわずに定番へ

StripeはCheckoutも顧客ポータルもWebhookも一通り揃っていて、Supabaseとの連携実績も豊富です。実績のある定番に乗るのが正解でした。

ただ基盤が固まっても、開発そのものはまだ綱渡りでした。ClaudeやCodexをCLIで使い続けていたものの、セッションをまたぐと文脈が途切れます。その継続性の弱さに足を取られ、認証をはじめ、あちこちで詰まる日々が続きました。

04 / 第3章:スキルとメモリを置き、開発そのものを AI へ寄せた

2026年2月に繰り返す作業をスキルとして定義し始め、4月にメモリの運用を始めました。属人的だった作業が、再現できる手順に変わっていきます。

スキルとメモリの中身を並べた図。スキルはAIに毎回読ませる手順書でレビューの回し方とリリースの進め方と仕様から実装までの流れを書き、メモリはセッションをまたいで残る事実の置き場でコーディング規約と進捗の状態と過去の失敗とその教訓を置く

図4:手順書としてのスキルと、事実の置き場としてのメモリ

深掘り:同じ罠を二度踏まないために

メモリには「この書き方をすると、ここで壊れる」「この前提は間違っていた」といった学びを書き残します。次のセッションのAIが同じ罠を踏まなくなり、毎回ゼロから説明し直す消耗も大きく減りました。運用の詳しい作法は長時間AI開発の現実にあります。

05 / マージ済みの PR は、2 月の 3 件から 5 月の 274 件へ

アウトプットの変わり方は、数で見るとはっきりします。2月から4月にかけて、桁が2つ動きました。

月別のマージ済みPR数の棒グラフ。2026年2月は3件、3月は10件、4月は178件、5月は274件、6月は月の途中まで250件

図5:月別のマージ済み PR 数(6 月は月の途中まで)

深掘り:体制を大きくしたわけではない

この跳ね上がりは、人を増やしたからでも、スキルとメモリだけで起きたものでもありません。効いたのはAIワークフロー全体の成熟でした。MCPで実環境を触らせ、仕様を計画へ落として自走させ、テストで検証し、別系統のAIを突き合わせる二重のレビューを回し、CIと品質ゲートで全体を担保する。それぞれ独立した記事になる話です。

06 / 効いたのは、モデルの賢さより道具立ての成熟

伸びたのはLLMそのものの賢さだけではありません。同じモデルでも、持たせる道具と進め方次第で出せるものがまるで変わります。

何が効いたかを比べた図。LLMそのものの賢さも伸びたが、同じくらい大きかったのはスキルとメモリとMCPと計画からの自走とレビューやテストの仕組みというハーネスや周辺ツールの進化だった

図6:決定打は、個別のライブラリ選定ではなかった

深掘り:同じ人間が、同じ時間で

SupabaseやVercelが良かったのも事実ですが、決定打は個別のライブラリ選定ではなく、進め方とその道具立てがまるごと成熟したことでした。同じ人間が同じ時間で桁違いの量を出せるようになった理由は、そこにあります。

こうして1年、作り替えながら出荷し続けているマイクロSaaSが PentaTrail / CTEM です。

付録:3 つの章と、乗り換えの理由

表1:時期と基盤

章 時期 基盤
第1章 2025年4月〜7月 Microsoft のノーコード(Power Platform / Dataverse / Azure)
第2章 2025年7月〜 Supabase / Vercel / Stripe の完全コードベース
第3章 2026年2月〜 スキルとメモリを足場にした AI ネイティブな開発

表2:ノーコードで見えた限界

限界 中身
人が前提 画面で人が操作することを前提としていて、自動化と逆を向く
設定管理が弱い 差分を取る・履歴をたどる・壊れたら戻すがやりにくい
列名が読めない 自動生成される内部の列名を、生成AIから予測できない
認証の連携 枠に収めようとするほど苦労が増える

表3:月別のマージ済み PR 数

月 マージ済み PR
2026年2月 3
3月 10
4月 178
5月 274
6月 250(月の途中まで)

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