脅威エクスポージャーリスク:技術リスク × ビジネスリスクの統合評価
目次
脅威エクスポージャーリスクとは
脅威エクスポージャーリスク(Threat Exposure Risk、TER) は、PentaTrail/CTEM が採用するリスク評価フレームワークです。技術的な脅威の深刻度とビジネスへの影響度を統合し、組織が直面する 真のリスク を定量化します。
従来のセキュリティ評価は技術的な深刻度に偏りがちでした。これに対し TER は 経営視点でのリスク判断 を可能にします。
従来のリスク評価の課題
技術偏重
CVSS スコアだけでは、脆弱性のビジネスへの影響を判断できません。たとえば CVSS 10.0 の脆弱性が非公開のテスト環境にある場合と、CVSS 6.0 の脆弱性が顧客データを扱う本番システムにある場合では、後者のほうが実害につながります。
サイロ化
セキュリティチームは技術的なリスクを評価し、経営層はビジネスリスクを判断する。この 2 つの視点が分断されていると、適切な意思決定はできません。
優先順位の混乱
複数のスコア(CVSS、EPSS、Evidence Grade など)を並列で表示すると、「結局何から手を付けるべきか」が不明確になります。
PentaTrail における TER の構成
TER は TDL(脅威ディスカバリレベル) と BI スコア(ビジネスインパクト) を組み合わせて算出します。
第 1 軸: TDL(Threat Discovery Level)
TDL は脆弱性を 5 段階のレベルに離散化した指標です。tdl5 が最重要、tdl1 が軽微です。
ベース TDL は CVSS と EPSS から算出します。
| 条件 | TDL |
|---|---|
| CVSS ≥ 9 かつ EPSS ≥ 0.1 | tdl5 |
| CVSS ≥ 9 | tdl4 |
| CVSS ≥ 7 かつ EPSS ≥ 0.1 | tdl4 |
| CVSS ≥ 7 | tdl3 |
| CVSS ≥ 4 かつ EPSS ≥ 0.1 | tdl3 |
| CVSS ≥ 4 | tdl2 |
| EPSS ≥ 0.1 | tdl2 |
| その他 | tdl1 |
実効 TDL は、ベース TDL に以下の 3 つの補正を加えて決定します。
Evidence Grade 補正
Evidence Grade は 検出エビデンスの品質 を A/B/C/D の 4 段階で表す指標です。多重ソースから検出された所見や、能動検証で確認済みの所見は Grade A(最高)となります。一方、外部 CVE 情報だけが根拠の所見は Grade C/D 扱いです。TDL は Grade に応じて最大 3 段階引き下げられ、誤検知の影響を抑えます。
AIディープスキャン結果の反映
PentaTrail は AIディープスキャンで脆弱性の存在を能動的に確認します。スキャン結果は TDL に双方向で反映されます。
- 確認できた所見: Evidence Grade A 扱いとなり、高優先度を維持します
- 確認できなかった所見: TDL を 1 段階引き下げます。「外部から到達できない、または既に修正されている可能性が高い」と判断し、対応の緊急度を下げる仕組みです
KEV ブースト
KEV(Known Exploited Vulnerabilities)は、米国 CISA が 実際の攻撃で悪用された脆弱性 を集約したカタログです。KEV 該当の所見は机上のリスクではなく、既知の攻撃手段が存在する 脅威となります。このため TDL は 1 段階引き上げられ、優先度が強調されます。
実効 TDL は最終的に tdl1〜tdl5 にクランプされます。Evidence Grade・AIディープスキャン結果の反映・KEV ブーストの詳細は、それぞれ別記事で解説する予定です。
第 2 軸: BI スコア(ビジネスインパクト)
BI スコアはアセットの事業上の重要度を 5〜13 の整数で表します。タグ未設定のアセットは初期値の 9 となります。
実装は次の 3 軸の合算です。
| 軸 | 値の範囲 | 例 |
|---|---|---|
| purpose(用途) | 1〜5 | 公開システム=5、社内専用=2、退役済み=1 |
| data_classification(データ分類) | 3〜5 | 個人情報・決済情報・機密=5、公開のみ=3 |
| availability(可用性) | 1〜3 | mission_critical=3、業務時間のみ=2、停止可=1 |
合計の最小値は 5(最小用途 + 公開のみ + 停止可)、最大値は 13(公開システム + 機密データ + 24 時間稼働)です。
統合: TER バンド
TER は TDL と BI スコアの組み合わせを 5 段階のバンド(S/A/B/C/D)に分類します。
| TDL \ BI | 1〜5(低) | 6〜10(中) | 11〜13(高) |
|---|---|---|---|
| tdl5〜tdl4(高 TDL) | B | A | S |
| tdl3〜tdl2(中 TDL) | C | B | A |
| tdl1(低 TDL) | D | C | B |
バンドの意味
| バンド | 対応目安 | 例 |
|---|---|---|
| S - Critical | 24 時間以内に対応 | 基幹システムの RCE(KEV 該当) |
| A - High | 1 週間以内に対応 | 顧客システムの高リスク脆弱性 |
| B - Medium | 1 ヶ月以内に対応 | 社内システムの中リスク脆弱性 |
| C - Low | 次回パッチサイクル | 低 BI 環境の低リスク脆弱性 |
| D - Info | モニタリング | 最小 BI 環境の軽微な所見 |
TER マップ — リスク態勢を一目で把握する
TER バンドの算出ロジックが分かっても、それだけでは「いま自社が S・A バンドを何件抱えているか」「それがどのアセットに集中しているか」は見えません。PentaTrail はこの全体像を TER マップ(脅威エクスポージャーマップ)として描画します。
マップを開く場所
TER マップはダッシュボードの Executive Dashboard と Mobilization 画面の双方に表示されます。最初は縮小されたミニマップとして表示され、クリックで拡大されます。マップ上のドット 1 つが「あるアセットで検出された 1 件の所見」に対応します。

マップの見方
TER マップは 2 軸の散布図 です。
| 軸 | 意味 |
|---|---|
| 横軸(X) | BI スコア(5〜13、高いほど重要資産) |
| 縦軸(Y) | 実効 TDL(tdl1〜tdl5、上に行くほど深刻) |
| 色 | TER バンド(S/A/B/C/D、色覚多様性に配慮) |
背景には 3×3 のグリッドが薄く描かれます。右上のセルに集まったドットほど S バンド寄り(基幹資産で深刻な脅威)、左下のセルに集まったドットほど D バンド寄り(最小 BI 環境の軽微な所見)として分類されます。

ドットを hover すると、その所見の CVE / 対象 FQDN / BI スコア / 実効 TDL / バンド / Evidence Grade / 担当グループ / アセットタグが詳細に表示されます。マップ上で「右上に何が密集しているか」を確認した後、ドット単位で「具体的にどのアセットでどの脆弱性か」へ即座に降りられます。

経営層への意味
TER マップは「セキュリティ態勢のレントゲン写真」のようなものです。
- 右上に密集している → 重要資産で深刻な脅威を抱えている → 優先対応領域が明確
- 散在している → リスクが広く薄く分散している → 体系的な底上げが必要
- 左下に偏在している → 既に対応済みか残課題は軽微 → 健全な態勢
経営層向けの報告では、各バンドの件数推移(前週比)と KEV 該当件数を併記することで、「どのレベルのリスクが増減しているか」を非専門家でも把握できます。
CTEM フレームワークとの関係
TER は CTEM の 5 フェーズの中で、特に Prioritization(優先順位付け) に該当します。
- Scoping: 保護対象の定義 → BI スコアの設定
- Discovery: 資産と脆弱性の発見 → CVSS / EPSS / Evidence Grade の取得
- Prioritization: TER の算出 → ここ
- Validation: 高リスク項目の検証
- Mobilization: 対応の推進
経営層への報告
TER の最大の利点は、経営層が理解できる形でリスクを表現 できることです。
報告例
- 「Critical(S バンド)の脅威が 3 件あり、すべて基幹 EC システムに集中しています」
- 「先月比で High(A バンド)以上の脅威は 40% 減少しました」
- 「新規発見された脆弱性のうち、ビジネス影響が大きいものは 12 件です」
技術用語を避けつつ、アクションに直結する情報を提供できます。
まとめ
TER は技術リスクとビジネスリスクを統合する「共通言語」です。セキュリティチームと経営層が同じ指標でリスクを議論できることで、組織全体のセキュリティ態勢は向上します。
検出エビデンスの品質を表す Evidence Grade の詳細は、別記事で解説する予定です。
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