脅威エクスポージャーリスク:技術リスク × ビジネスリスクの統合評価

PentaTrail編集部··7分で読める
目次

脅威エクスポージャーリスクとは

脅威エクスポージャーリスク(Threat Exposure Risk、TER) は、PentaTrail/CTEM が採用するリスク評価フレームワークです。技術的な脅威の深刻度とビジネスへの影響度を統合し、組織が直面する 真のリスク を定量化します。

従来のセキュリティ評価は技術的な深刻度に偏りがちでした。これに対し TER は 経営視点でのリスク判断 を可能にします。

従来のリスク評価の課題

技術偏重

CVSS スコアだけでは、脆弱性のビジネスへの影響を判断できません。たとえば CVSS 10.0 の脆弱性が非公開のテスト環境にある場合と、CVSS 6.0 の脆弱性が顧客データを扱う本番システムにある場合では、後者のほうが実害につながります。

サイロ化

セキュリティチームは技術的なリスクを評価し、経営層はビジネスリスクを判断する。この 2 つの視点が分断されていると、適切な意思決定はできません。

優先順位の混乱

複数のスコア(CVSS、EPSS、Evidence Grade など)を並列で表示すると、「結局何から手を付けるべきか」が不明確になります。

PentaTrail における TER の構成

TER は TDL(脅威ディスカバリレベル)BI スコア(ビジネスインパクト) を組み合わせて算出します。

第 1 軸: TDL(Threat Discovery Level)

TDL は脆弱性を 5 段階のレベルに離散化した指標です。tdl5 が最重要、tdl1 が軽微です。

ベース TDL は CVSS と EPSS から算出します。

条件 TDL
CVSS ≥ 9 かつ EPSS ≥ 0.1 tdl5
CVSS ≥ 9 tdl4
CVSS ≥ 7 かつ EPSS ≥ 0.1 tdl4
CVSS ≥ 7 tdl3
CVSS ≥ 4 かつ EPSS ≥ 0.1 tdl3
CVSS ≥ 4 tdl2
EPSS ≥ 0.1 tdl2
その他 tdl1

実効 TDL は、ベース TDL に以下の 3 つの補正を加えて決定します。

Evidence Grade 補正

Evidence Grade は 検出エビデンスの品質 を A/B/C/D の 4 段階で表す指標です。多重ソースから検出された所見や、能動検証で確認済みの所見は Grade A(最高)となります。一方、外部 CVE 情報だけが根拠の所見は Grade C/D 扱いです。TDL は Grade に応じて最大 3 段階引き下げられ、誤検知の影響を抑えます。

AIディープスキャン結果の反映

PentaTrail は AIディープスキャンで脆弱性の存在を能動的に確認します。スキャン結果は TDL に双方向で反映されます。

  • 確認できた所見: Evidence Grade A 扱いとなり、高優先度を維持します
  • 確認できなかった所見: TDL を 1 段階引き下げます。「外部から到達できない、または既に修正されている可能性が高い」と判断し、対応の緊急度を下げる仕組みです

KEV ブースト

KEV(Known Exploited Vulnerabilities)は、米国 CISA が 実際の攻撃で悪用された脆弱性 を集約したカタログです。KEV 該当の所見は机上のリスクではなく、既知の攻撃手段が存在する 脅威となります。このため TDL は 1 段階引き上げられ、優先度が強調されます。

実効 TDL は最終的に tdl1〜tdl5 にクランプされます。Evidence Grade・AIディープスキャン結果の反映・KEV ブーストの詳細は、それぞれ別記事で解説する予定です。

第 2 軸: BI スコア(ビジネスインパクト)

BI スコアはアセットの事業上の重要度を 5〜13 の整数で表します。タグ未設定のアセットは初期値の 9 となります。

実装は次の 3 軸の合算です。

値の範囲
purpose(用途) 1〜5 公開システム=5、社内専用=2、退役済み=1
data_classification(データ分類) 3〜5 個人情報・決済情報・機密=5、公開のみ=3
availability(可用性) 1〜3 mission_critical=3、業務時間のみ=2、停止可=1

合計の最小値は 5(最小用途 + 公開のみ + 停止可)、最大値は 13(公開システム + 機密データ + 24 時間稼働)です。

統合: TER バンド

TER は TDL と BI スコアの組み合わせを 5 段階のバンド(S/A/B/C/D)に分類します。

TDL \ BI 1〜5(低) 6〜10(中) 11〜13(高)
tdl5〜tdl4(高 TDL) B A S
tdl3〜tdl2(中 TDL) C B A
tdl1(低 TDL) D C B

バンドの意味

バンド 対応目安
S - Critical 24 時間以内に対応 基幹システムの RCE(KEV 該当)
A - High 1 週間以内に対応 顧客システムの高リスク脆弱性
B - Medium 1 ヶ月以内に対応 社内システムの中リスク脆弱性
C - Low 次回パッチサイクル 低 BI 環境の低リスク脆弱性
D - Info モニタリング 最小 BI 環境の軽微な所見

TER マップ — リスク態勢を一目で把握する

TER バンドの算出ロジックが分かっても、それだけでは「いま自社が S・A バンドを何件抱えているか」「それがどのアセットに集中しているか」は見えません。PentaTrail はこの全体像を TER マップ(脅威エクスポージャーマップ)として描画します。

マップを開く場所

TER マップはダッシュボードの Executive Dashboard と Mobilization 画面の双方に表示されます。最初は縮小されたミニマップとして表示され、クリックで拡大されます。マップ上のドット 1 つが「あるアセットで検出された 1 件の所見」に対応します。

Executive Dashboard の TER マップ。ミニマップ、バンド分布バー、KEV 件数、AI ディープスキャン検証状況、AI 生成インサイトが並ぶ

マップの見方

TER マップは 2 軸の散布図 です。

意味
横軸(X) BI スコア(5〜13、高いほど重要資産)
縦軸(Y) 実効 TDL(tdl1〜tdl5、上に行くほど深刻)
TER バンド(S/A/B/C/D、色覚多様性に配慮)

背景には 3×3 のグリッドが薄く描かれます。右上のセルに集まったドットほど S バンド寄り(基幹資産で深刻な脅威)、左下のセルに集まったドットほど D バンド寄り(最小 BI 環境の軽微な所見)として分類されます。

TER マップを拡大した散布図。BI スコア(横軸 3〜13)と脅威ディスカバリレベル(縦軸)の matrix にバンド色のドットが分布、右上ほど S バンドに、左下ほど D バンドに集まる

ドットを hover すると、その所見の CVE / 対象 FQDN / BI スコア / 実効 TDL / バンド / Evidence Grade / 担当グループ / アセットタグが詳細に表示されます。マップ上で「右上に何が密集しているか」を確認した後、ドット単位で「具体的にどのアセットでどの脆弱性か」へ即座に降りられます。

TER マップのドットを hover した tooltip。CVE / アセット FQDN / BI / 実効 TDL / バンド / Evidence Grade / 担当グループ / アセットタグが表示される

経営層への意味

TER マップは「セキュリティ態勢のレントゲン写真」のようなものです。

  • 右上に密集している → 重要資産で深刻な脅威を抱えている → 優先対応領域が明確
  • 散在している → リスクが広く薄く分散している → 体系的な底上げが必要
  • 左下に偏在している → 既に対応済みか残課題は軽微 → 健全な態勢

経営層向けの報告では、各バンドの件数推移(前週比)と KEV 該当件数を併記することで、「どのレベルのリスクが増減しているか」を非専門家でも把握できます。

CTEM フレームワークとの関係

TER は CTEM の 5 フェーズの中で、特に Prioritization(優先順位付け) に該当します。

  1. Scoping: 保護対象の定義 → BI スコアの設定
  2. Discovery: 資産と脆弱性の発見 → CVSS / EPSS / Evidence Grade の取得
  3. Prioritization: TER の算出 → ここ
  4. Validation: 高リスク項目の検証
  5. Mobilization: 対応の推進

経営層への報告

TER の最大の利点は、経営層が理解できる形でリスクを表現 できることです。

報告例

  • 「Critical(S バンド)の脅威が 3 件あり、すべて基幹 EC システムに集中しています」
  • 「先月比で High(A バンド)以上の脅威は 40% 減少しました」
  • 「新規発見された脆弱性のうち、ビジネス影響が大きいものは 12 件です」

技術用語を避けつつ、アクションに直結する情報を提供できます。

まとめ

TER は技術リスクとビジネスリスクを統合する「共通言語」です。セキュリティチームと経営層が同じ指標でリスクを議論できることで、組織全体のセキュリティ態勢は向上します。

検出エビデンスの品質を表す Evidence Grade の詳細は、別記事で解説する予定です。

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