MCPとは:AIに「手」を持たせるということ

株式会社ペンタコン研究所 PentaTrail開発チーム···5分で読める
目次

長いあいだ、AIとの開発は、ソースコードをコピペして返ってきたものを戻す手作業でした。

AIは文章を読んで文章を返すだけで、実際の環境には指一本触れられません。だから現状はこちらが調べて教えるしかなく、返ってくる答えはいつも「たぶん、こうなっているはず」という推測の上に乗っていました。

01 / MCP は、AI に外部の環境を触らせるための共通の口

つないだ AI は、文章を返すだけでなく、データベースに問い合わせたり、ブラウザを操作したり、デプロイの状態を見にいったりできます。変わったのは能力ではなく、届く範囲のほうです。

読むだけのAIと環境に手を伸ばすAIを比べた図。読むだけのAIは文章を読んで文章を返すだけで現状はこちらが調べて教えるしかないが、MCPの口につなぐとデータベースへの問い合わせやブラウザの操作やデプロイの状態の確認まで届く

図1:届く範囲が変わった

深掘り:推測の上に乗っていた答え

環境に触れないAIへ現状を伝えるのは、こちらの仕事でした。伝え漏らせばそのぶん推測が混ざり、返ってきたコードは「たぶんこうなっているはず」の上に建ちます。手戻りの多くは、ここから来ていました。

02 / まず効いたのは、いまの姿を直接たしかめられること

データベースの定義を知るのに、それまでは変更の履歴を頭から追うしかありませんでした。差分は「過去に何をしたか」の記録であって、「いま現在どうなっているか」ではありません。

履歴から組み立てる方法と現状を直接見る方法を比べた図。差分は千本を超えていて順に読んでも最新の姿は復元できず読むほど分からなくなるが、いまの定義を直接照会すれば推測が事実に置き換わる

図2:履歴から組み立てるのをやめて、いまを直接見る

深掘り:ライブラリの書き方も、いまを引く

AIの知識は学習した時点で止まっているので、すでに変わってしまった古い書き方のまま、それらしいコードを返してくることがあります。公式ドキュメントをその場で最新の状態から引ければ、「その書き方はもう廃止されている」と後から気づいて書き直す遠回りが減ります。

03 / 次に変わったのは、実機で回して確かめられること

コードを読むだけでは、画面が実際に動くのか、本番に正しく出ているのかは分かりません。「たぶん動く」と「動いている」のあいだには、いつも溝があります。

実機で確かめる3つの経路の図。ブラウザを立ち上げてログインから一連の流れを実際に踏む、PRやIssueやコード横断の検索を扱って変更を出す見るたどるを地続きにする、本番に正しく反映されているかを状態やログから直接たしかめる

図3:溝をまたがせた 3 つの経路

深掘り:文面をいくら読んでも見えないずれ

コード上は通っているのに、実機ではログイン直後にうまく遷移しない、といった実行時のずれがあります。触ってみて初めて分かる類のもので、読むだけでは見えません。「出したつもり」も曲者で、「出たはず」を「出ているのを見た」に変える一手が要ります。

04 / 触れるということは、壊せるということ

プレビュー環境を作り直すだけのつもりで再デプロイの操作を任せたところ、それが本番の正規の公開先まで巻き取りました。「読むだけ」のAIなら絶対に起こらない事故です。

触れることで起きた事故の流れの図。プレビュー環境を作り直すつもりの再デプロイが本番の正規の公開先を巻き取り、本番が一時的におかしくなっただけでなく開発用の環境が本番側の設定を読みにいってそちらも壊れた

図4:便利さと危険は、同じ蛇口から出てくる

深掘り:二重に壊れた

本番が一時的におかしくなっただけでなく、開発用の環境が本番側の設定を読みにいって、そちらも壊れました。身をもって学んだのは、権限の線引きが後回しにできないということです。

05 / だから、何を読めて何を書けるかの線引きが命綱になる

書き込みを禁じるガードは自動では付いてきません。手順そのもので縛るしかありません。

権限の線引きを示した図。本番データベースへの問い合わせは参照だけに限って運用で守り、秘密情報はAIに渡さず環境の外に置いたままにする

図5:手順で縛る 2 つの線

深掘り:踏み込むほど、気をつけることも増える

既製のものをつなぐだけでなく、自分たちのプロダクトを操作するものまで自前で作るようになりました。できることが増えたぶん、線引きの数も増えています。自社の CTEM データを AI から扱えるようにした話はCTEMデータをMCPでAIエージェントに繋ぐにあります。

06 / 手を持たせる、けれど手綱は握る

いまを直接たしかめ、実機で動きを見て、推測由来の手戻りが減りました。同時に、触れるからこそ事故も起こりえます。

手を持たせることと手綱を握ることを並べた図。手を持たせる側はいまを直接たしかめて実機で動きを見て推測由来の手戻りを減らし、手綱を握る側は権限の線引きと運用の手順を人間が持ち続ける

図6:任せられることが増えても、任せきりにはしない

深掘り:この 1 年で落ち着いた線

手綱、つまり権限の線引きと運用の手順は、人間が握り続けます。任せられることが増えても、任せきりにはしません。この1年で学んだ線引きは、だいたいそこに落ち着きました。

こうして手探りで作り続けているのが PentaTrail / CTEM です。外から見える会社の攻撃面を、AIで継続的に把握するサービスです。

付録:つないだものと、何が変わったか

表1:現状をたしかめる側

つないだもの 何ができるようになったか 何が減ったか
データベース いまの定義やデータを直接照会する 履歴を追って現状を組み立てる作業と、その誤り
ライブラリの公式ドキュメント 使っている版の正しい書き方をその場で引く 廃止された書き方で書いて、後から書き直す遠回り

表2:実機で回す側

つないだもの 何ができるようになったか 何が減ったか
ブラウザ ログインから一連の流れを実際に踏む 実行時のずれの見落とし
コードの置き場 PR や課題、コード横断の検索を扱う 変更を出す・見る・たどるの分断
デプロイ先 反映とエラーを状態やログから確かめる 「出したつもり」のまま気づかない状態

表3:線引き

決めていること 防いでいること
本番データベースへの問い合わせは参照だけに限る 書き込みによる破壊
秘密情報はAIに渡さず、環境の外に置いたままにする 鍵やトークンの流出
権限の線引きと運用の手順は人間が持つ 任せきりにしたときの事故

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